佐宗邦威さんは、同世代のアイセッカーであり、ビジネスパーソンとして活躍したのちにデザインを本格的に勉強し、デザインを軸とした戦略コンサルタントとして独自の立場を築き、「模倣と創造」、「直感と論理をつなぐ思考法」などの良書を世に送り出してきた。そんな彼が、相当の「生みの苦しみ」を経て、今までの集大成として書き上げたという「経営理念2.0」が出版された。
実はこの本を読んだのは結構前で、6月の初旬の頃だった。このとき自分は、「経営理念2.0」をワークブックとして用いて、本に書き込む形で自分のビジョン、ヒストリー、バリュー、ミッションなどを一応まとめ上げた。頑張ってまとめ上げたものの、なんとなくしっくりこなくて、いまだ外に出せない状況でいる。しっくりこないのは、ありきたりな言葉であって魂がこもっていないように思えることや、自分の実情との繋がりがはっきりしないことなどが原因かもしれない。ともかく自分が作った「経営理念」はお蔵入りとなった。
さて、職場では夏休みのシーズンに入ったのだけれど、とりあえず出勤して仕事をしていた。でも、なんだか集中できず、心ここにあらずの状態が続いたので、思い切って、水曜日から日曜日(本日)までの5日間を完全オフにして、仕事のことは一切忘れていろいろなことをしてみることにした。で、火曜日の帰りに見つけたのが、佐宗さんが「経営理念2.0」とほぼ同時に出した本「じぶん時間を生きる」だった。佐宗さんがコロナ禍等を契機に軽井沢に生活の拠点を移し、考えたことなどのエッセイを中心に、これをやや一般化するための分析を加えた書といったところだ。大きく2つに分けると、古い自分を捨てて、次なる自分を見つけ、新たな自分に生まれ変わっていくプロセスとその際に起こることを説明する「トランジション」の考え方、そしてトランジションの過程で佐宗さんがみた新しい生き方(時間のポートフォリオ:仕事、住まい、食、コミュニティ、教育)を紹介している。このうち、後者については、今の自分は東京に住んでいるし、リモート勤務もできない、兼業もできないということで、なかなか自分ごととして受け止めることはできなかったが、家族で岡山に住んでいたとき(この頃はリモートワークなど考えられない時期だったが。)の環境を考えると、その時間の流れ方をなんとなくイメージすることはできた。
自分に刺さったのは前者、つまり「トランジション」の考え方で、人生における転機には3つの段階があり、第一段階は「終わらせる段階」、第二段階は「ニュートラルな段階(ニュートラルゾーン)」、第三段階は「次のステージを始める段階(再生期)」である。
「終わらせる段階」は、全てのトラジションの出発点である。コロナ禍(グレートリセット)により色々な「当たり前」が強制的に終了され、トランジションを余儀なくされたという人もいるが、意識的に、惰性を断ち切って「余白」を生み出し、本質的な変化を呼び込むこともできるということだ。第二段階の「ニュートラルゾーン」は、自分の存在意義が危うくなることから最も不安に苛まれる時期であるが、内省等により制御しつつ、方向性を決めずに動き回り、新しいコミュニティに飛び込むなどして小さな化学反応を起こし続ける。第三段階になれば、頭と手を動かしてビジョンを作り、徐々に生活の中に「自分」を起点とした動きを取り入れていき、これを「他人基準」の行動と置き換えていく。ざっくりというとこんな感じだ。
結果として、5日間仕事から完全に離れて本を読んだり、身体を動かしたり、遊んだりしたことは、「休みであっても仕事をする自分」を終わらせて、短いながらもニュートラルゾーンを経験したことになる。第三段階をうまく総括できていないが、ともかくも小さな(トライアスロンじゃない方の)トランジションが起きてきるように思える。これが自分の仕事の仕方、時間の使い方がどう変わっていくのかはまだ分からない。5日間でやりたいと思っていたことが全てできたわけでもない。ただ、なんとなく「手放す方法」を理解することができたように思うし、ニュートラルゾーンでの動き方のイメージもそこはかとなく掴めたように思う。これから、このトランジションを少しづつ大きくしていくことにより、「じぶん時間」の生き方、それにマッチした仕事やコミュニティなどを見つけることもできそうだなと感じた。その時は、お蔵入りになった自分の「経営理念」を見直して、もう少し自分の心に寄せたものが作れるのではないかとも感じた。