毎朝、一日がスタートするとき、自分にこう問いかけよう(紙に書いて鏡に貼っておくとよい)。「今日は、私にとって、周囲の人にとって、どんな学習と成長のチャンスがあるだろうか?」(p345)
「伸びしろがあるね。」
トライアスロンのコーチや練習をする人は、自分や誰かが現在できないこと、すなわち課題があることについて、それを「伸びしろ」と表現する人が多い。つまり、現在その人ができないことは、これから練習することによって、克服することができる、ということをその単語に込めているのだ。初心者である自分は、「伸びしろがたくさんあってうらやましい!」と言われたことすらある。
無謬であることを求められ続ける仕事をしてきた自分にとって、課題を「伸びしろ」と表現してそこに成長の機会を見出していくこの考え方は新鮮だった。失敗はあってはならないもの、取り除かねばならないもの、起こることが無いように事前に最大限の警戒を要するもの。ちょっと大袈裟に言うと自分の職場はこういう考え方だ。多くの人が失敗を恐れ、肩を縮こませているようにすら見える。
キャロル・S・デュエック「マインドセット『やればできる!』の研究」を読んだ。人の能力・資質は石板に刻まれたように固定的で変わらないと信じる考え方(=硬直マインドセット、Fixed Mindset)と、人の基本的資質は努力次第で伸ばすことができると信じる考え方(しなやかマインドセット、Growth Mindset)の二種類の考え方があると書いてあった。そして、硬直マインドセットに囚われていると、絶えず自分の能力を証明せずにはいられない、一つの失敗の事実が、自分が失敗者であるというアイデンティティになってしまうという。他方、しなやかマインドセットであれば、失敗を機会と捉えて奮起し、教訓を得て更に成長を続けていけるという。
半年ぐらい前、仕事でちょっとした失敗をしたことがあった。その時自分は、どうしようもないぐらい落ち込んだ。これで評価も落ちた、やっぱりこの仕事には向いていないんだ、資格がない、自分に向いている別の仕事を探さなくては、などなど。今考えるとおかしな話だが、硬直マインドセットそのものだった。また、自分の職場では、「〇〇さんは優秀だ」といった表現がされることもよくある。これもある意味、硬直マインドセットの現れであると思う。その人がどのような努力をしてきたかを想像せずに「仕事が(生来的に)できる人」という意味合いが込められており、自分はそのようにはなれないといった卑屈さや嫉妬、諦観などが見え隠れするように思われるからである。
客観的にみると、トライアスロンのコーチが言うように、自分にも伸びしろが実際にあって、一生懸命練習をすることにより確実に成長してきた。仕事や学習、人間関係だって同じはずだ。自分にも、この組織にも、家族にも、誰にでも伸びしろがたくさんある。事実を直視する勇気と、それを機会と捉えるマインドセットと、努力を継続できる根気。これを回し続ける情熱が伝播していけば、自分も周りもどんどん成長を続けられるはずだ。
優劣や善悪の判断をくだすのはやめて、教え導いていこう。今まさに学んでいる最中なのだから。(p271)
(追記)先週、代官山蔦屋書店で行われた孫泰蔵さんの「冒険の書」刊行記念トークイベントに参加してきました。泰蔵さんは、「学生の頃から数え切れない程失敗してきた。失敗の数なら誰にも負けない。それが今の自分の自信につながっている。マーク・ザッカーバーグやジェフ・ベソスとも、その自信があったから対等に話すことができた。」とおっしゃっていました。